嵐の山頂で、『赤い夕陽の爺yulie』を観た

嵐の夜です。
 
きょうは、函館港イルミナシオン映画祭2日目。
函館山山頂のクレモナホールで上映される作品を終日観ようと
朝からご飯を多めに炊き、おでんを仕込んだり、おいなりさんを詰めたり。
雨の中、ロープウェイで山上へ向かったのですが、風が強く揺れました。
眼下の海は、遠目にも波が高く、白く猛る波頭に乗客が「東映だな」と言ってました。
その感想が、いかにも映画好きのもので、思わず「岩があればね」などと反応する余裕が
そのときはまだ、ありました。
 
きょうのいちばんの目的は、最初に上映される『赤い夕陽の爺yulie』を観ることです。
この映画は、穂別のお年寄りたちが町おこしのために自分たちで映画を撮ろうと、
映画監督・崔洋一氏の指導で『田んぼdeミュージカル』を作ってから、実に4作目となるものです。
プロデューサーで脚本を書かれている斉藤征義さんは、詩誌「ZERO」「極光」「ガニメデ」で活躍されている詩人です。
その斉藤さんがゲストで来場されるというので、ぜひともと思ったのです。
『田んぼdeミュージカル』委員会は、『海炭市叙景』に寄付してくださったうえに、
完成披露試写会には、お祝いのお花も届けてくださったのです。
(わたしも、この『赤い夕陽の~」に協賛金を送りました。後日DVDを送ってくれるそうです)
 
さて、映画は、西部劇仕立てのミュージカルでした。
奥泉光さん以外、全員素人なので、台詞はさすがに棒読み、学芸会状態が気になりましたが
ほんものの自然や、音楽が美しいです。それと、セットがすごいです。
西部劇おなじみの酒場、カウンター。すっかり燃えてしまう建物。
お年寄りたちが楽しそうです。
そして、そうか、これは住民たちの夢と力を結集した学芸会なんだ、と思いました。
宮沢賢治研究家でもある斉藤さんの、お年寄りたちのための童話なのでしょう。
それからは台詞の難は気にならなくなり、一緒に楽しめました。
最後に穂別の歴史が、モノクロで流れ、自分たちがこれほどまでに求めてきた電気とは何なのだ、と。
このラストはイイナと思いました。
上映後、斉藤さんと出演者(悪者役)の宮田さんのトークがありました。
斉藤さんは、きょう上映したものは去年の夏クランクインしたときの台本通りの結末ですが、
この映画が発電所、電気のことをテーマにしているので、予想だにしていなかった東日本大震災・原発事故後
悩んで、いちどは結末を変えて青森映画祭に参加したそうです。
しかし、電気を通すということがお年寄りたちの記録・町の記録なのだと、また元に戻したそうです。
そして、震災から240日後の先月、前作『いい爺ライダー』を上映し喜んでくれた福島県南相馬の
図書館と仮設住宅の集会所で上映したところ、このラストシーンに共感したと言ってもらえたそうです。
 
この夏、穂別では被災地の子どもたち80人を受け入れたそうです。
映画作りは本作で最終かと、淋しげだったお年寄りたちが生き生きと元気になったそうです。
来年以降もつづけられる予定だそうです。
いい話だなと思いました。
お年寄りたちが子どもたちの面倒をみる、面倒をみられた子どもたちがお年寄りたちを力づけている、のですね。
 
出演者の宮田さんは70歳ですが、ご自分を「ニューフェース」と仰って、会場には笑いが。
なにしろ、平均年齢78歳の方々なのです。
映画は人を元気にしますね。
 
トークが終わるとアナウンスが
強風のためロープウェイは停止しました。タクシーを用意しましたので、乗り合わせて下山してください」
え?え?
この後の上映も、明日も、山頂ではないと言うことで
『スケッチ・オブ・ミャーク』らの鑑賞をあきらめ帰途につきました。
 

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