5月ですね。
いつまでも寒い日々です。
ブログ、ずいぶん長い間のご無沙汰でした。
いろんなこと、うれしいこともつらいこともありましたが・・・セラヴィ♪
3月から、所属する点字サークルでは視覚障がい者からの依頼で、新聞に投稿された俳句や短歌の点訳・校正をしています。
その担当になって、十七音、三十一文字のことばに託して日々の喜び悲しみを綴る人が実にたくさんおられることに気づかされました。
この小さい詩型がある僥倖を思います。
作句・作歌することで、また、それを読むことで、癒されたり支えられたり楽しんだり・・・
ことばは時に力持ちです。
依頼された方は、視覚だけでなく聴力も失っている方です。
その方が、有名歌人・俳人の歌集や句集ではなく、地元の新聞の読者が投稿した俳句や短歌を読みたいとリクエストされたことの意味。
ことばがあってよかった、ことばを伝える手段があってよかった、と思います。
わたしも読書の好きな子どもでした。
その読む歓びのお手伝いを多少なりともできたらと思ってはじめた点字でしたが、
点訳・校正をしていることでわたし自身が得るものも大きいです。
点字利用者のリクエストにはレシピもあります。
健常者以上に積極的に意欲的に生きる方々に教えられます。
それと、自分からは手にしない本も読むことになり狭い読書の幅が少し広がりました。
桜木紫乃さんの『ホテルローヤル』も、点字の校正で読みました。
桜木さんとは、むかし彼女が違う名前(ご本名?)で詩を書いていたころ、一度お葉書を戴いたことはありますが、小説を読むのは初めてでした。
面白かったです。
『ホテルローヤル』は「シャッターチャンス」「本日開店」「えっち屋」「バブルバス」「せんせぇ」「星を見ていた」「ギフト」の7篇からなる連作短編集。
それぞれ別の物語ですが、そのどれもがホテルローヤルという道東のラブホテルに関係しています。
連作短編、舞台となった地に生まれ育った作家の作品という意味でも、佐藤泰志『海炭市叙景』と通ずるものがあります。
ひとつはっきり違うのは、作品の時間が遡っていくことでしょうか。
最初の「シャッターチャンス」が廃墟となったラブホテル、最後の「ギフト」がラブホテル開業、という具合にです。
読み進めていくと前の篇で出てきた事件はこれだったかとか、あの人の若き日はこんなだったのかと気づいて、山坂をのぼって頂きに着いたら全てが見渡せたという感じがあります。
読み始めてすぐ、ラブホテルの看板の端が隠れて「ホテルローヤ」と読めるところでギョッとし後ニヤッ。ホテルロイヤルではなくホテルローヤルにしたのは、これを入れたかったんだろうな。
どの篇も面白いですが、「せんせぇ」と「星を見ていた」が好きです。
「せんせぇ」は、元上司に勧められて結婚した妻が、その上司と結婚前からずっと関係が続いていたことを知って道南に単身赴任している高校教師と、家庭崩壊した家を出てきた女生徒との心ならすもはじまる道行き。
「星を見ていた」は無学で貧しく働きづめの生涯ながら、どんなときにも亡き母の言いつけを守って懸命に働く中年の女性が主人公。子どもたちは家を出ていったきり帰ってこないが、あるとき息子から母の働き先のラブホテルに給料があがったからと現金が届く。しかし、その後、ホテルの従業員たちと見ていたテレビのニュースに流れた逮捕者の名が・・
いいかミコ、なにがあっても働け。一生懸命に体動かしてる人間には誰もなにも言わねえもんだ。聞きたくねえことには耳ふさげ。働いていればよく眠れるし、朝になりゃみんな忘れてる。
(桜木紫乃著『ホテルローヤル』所収「星を見ていた」より)