昨日は映画『書くことの重さ 作家 佐藤泰志』の函館公開初日でした。
5月に試写会で観ていましたが、再編集された本編は試写で観たのよりぐっとしまって良くなっていました。
全国公開に先駆けて、佐藤の故郷・函館での先行上映です。
映画の終了後には、再現映像で佐藤泰志を演じた村上新悟さん、仲居役の樋口泰子さんの舞台挨拶がありました。
お二人とも、この映画に〈語り〉で出演されている仲代達矢さん主宰の無名塾の俳優さんです。
司会の寺尾さんに「お二人にとって仲代さんはどんな方ですか?」と訊かれて、「芝居には厳しいが、ふだんはお茶目なところもあるチャーミングな方」「塾生を子供のように思ってくれている」と答えられていました。
その後、ロビーでサイン会もあったのですが、ちょうど壁面の『日本の悲劇』ポスターの仲代さんが、サインをするお二人を見守るようだったのが印象的でした。
『書くことの重さ 作家 佐藤泰志』の感想は、まちづくりセンターで試写を観たあと、このブログに書きました。
今回 は二度目なので内容は知っています。
再編集された完成版を、シネマアイリスのいつもの席でゆったり噛みしめながら鑑賞できました。
買い求めたパンフレットには、高校2年から3年になる春休みに出会って衝撃を受けた「市街戦のジャズメン」が収録されています。
同い年の稲塚監督もこの『北方文芸』に載ったヤスシの小説に「驚きと憧れ」を持たれたのだそうです。
映画を観ていて、小説『海炭市叙景』の第一章「物語のはじまった崖」の二話目「青い空の下の海」を想起しました。あの作家志望の男のその後の物語のようでした。
そして、同時に、これは稲塚監督の佐藤泰志を探し、辿る、旅なのだと思いました。
「青い空の下の海」は佐藤泰志を想わせる小説家志望の男が主人公です。都会で一緒に暮らす彼女を故郷に連れてきて親に会わせ、帰京する連絡船での様子が描かれています。
文芸誌『すばる』に連載された『海炭市叙景』は初期の構想では36篇だったようですが、発表されたのは2章18篇です。
書かれなかった残りの18篇は、この18編と対になるものだったでしょうか。
描かれた叙景の季節は冬と春。
夏と秋がありません。
海炭市叙景の描かれなかった夏秋の18篇。
それは、残された者が紡いでいくのだろうと思います。
そして、それはすでに数篇が紡がれていると、わたしは感じています。
「絵を飾る会」
先ず、佐藤泰志の自死後、中学・高校の同級生が中心となって函館文学館に単行本『海炭市叙景』のカバー画の原画を寄贈する取り組みがありました。
佐藤泰志の関係者や読者が寄付をしました。
「叙景」とまとめられた手作りの冊子にその方たちのお名前が記されています。
福間健二さんや久間十義さんの名もあります。「市街戦のジャズメン」で佐藤泰志に出会ったわたしの名も。
数年後、同級生たちは、追想集「きみの鳥はうたえる」も発行しています。
「はこだてルネサンスの会」
次に、2007年、図書クレインが『佐藤泰志作品集』を発行してくれました。
「小さな出版社が大きな仕事」と新聞でも讃えられた素晴らしい出来事でした。
この作品集を出版してくださったこと、そして作品集の巻頭に「海炭市叙景」を置いてくださったことは大きかったです。
翌2008年「はこだてルネサンスの会」という自主講座でクレインの文弘樹さんをお招きして講演と関係者トークを開催しました。
(そのときのチラシは拙作です。トークにも参加しましたが、恥ずかしいので参加者名は「ほか」笑)
その会に作品集の「海炭市叙景」を読んでくれていたシネマアイリスの菅原和博さんが来ていて海炭市叙景映画化へと繋がるのです。
「映画『海炭市叙景』製作実行委員会」
年が明けて2009年の2月に準備委員会の集まり、そして『海炭市叙景』実行委員会が発足しました。
募金活動、先行撮影、と春夏秋冬を夢中で活動しました。
実行委員会メンバーの中野さんが記録した映像を函館港イルミナシオン映画祭でご覧になった評論家の寺脇研さんが「これもひとつの映画だね」と仰ってくださいました。
そうなのです、映画製作のための活動もひとつの物語でした。
多くの市民の気持ちと寄付を頂いて、2010年冬のロケを無事終え、初夏に東京五反田のイマジカで初号試写を観たときの安堵感を覚えています。
「45年後の市街戦のジャズメン」
そして、このたびの『書くことの重さ 作家 佐藤泰志』です。
ここに描かれたものは「青い空の下の海」の作家志望のその後であると同時に、佐藤と同じく有島青少年文芸賞に入選した稲塚少年の45年後の佐藤泰志への旅の物語だと思うのです。
45年後の「市街戦のジャズメン」-小説『海炭市叙景』と映画『書くことの重さ 作家 佐藤泰志』
記録映画「書くことの重さ~作家 佐藤泰志」
今夜(23日)はドキュメンタリー映画「書くことの重さ~作家 佐藤泰志」の函館試写会でした。関係者・協力者のみへの案内ということで、知った顔が並びました。上映前に稲塚秀孝監督のご挨拶がありました。稲塚監督は、苫小牧の出身で、佐藤泰志の一歳下です。ご自身も入選した「第5回有島青少年文芸賞」の発表で佐藤泰志を知りました。入選作は主催の北海道新聞に掲載され...