小林政広監督作品『愛の予感』を観終わったところ。
『結び目』の脚本家・港岳彦さんが激賞していたのを読んで、観たいなと思っていたのだが
近所のゲオにはなくて、遠くのTSUTAYAでDVDを借りてきた。
冒頭のインタビューに答えているところとラストの短い独白をのぞいて台詞はない。
音楽もない。
被害者の父と加害者の母。
苦しみのただなかにあって、さらし者になってしまったふたりが
そこから逃れるためにきた北のまちで出会う。
男は鉄工所の火のなかで働き、職員寮となっている民宿の風呂に入り、トレーに載ったご飯を食べる。
女は寮の賄いで朝食の卵を焼き、夕食のジャガイモを剥く。
男は生卵を直にご飯に割り、醤油とかき混ぜかきこむ。
女は片づけの終わった流しで立ったままご飯を流し込む。
荒涼とした食が、荒涼とした生を象徴する。
ひたすらなその繰り返し。
はじめのうちは、この繰り返しを観ることにいつまで耐えられるだろうか、
そのうち展開があるだろうか、あってくれよと思っていたが
いつしか、そんな気は失せている。
こうして生きてあることだけでいい、と思えてきている。
そのことに、驚く。
無言がむしろリアルだ。救いだ。と、なったころ
女の歩き方が、顔の角度が、食事の量が変わってきている、
男の表情に生気がでてきている。
エンディングの唄がよかった。
きょう、M新聞のN記者と佐藤泰志の話をしてきた。
Nさんは、佐藤泰志の作品を体感するため、函館山へ徒歩で登ってきたという。
泰志のこと、作品のこと、話が弾んで長時間に及んだ。
最後に、佐藤泰志の作品のなかで何が一番好きかと訊かれた。
いちばん?なんだろ、少し考えてから
『海炭市叙景』の「一滴のあこがれ」と答えていた。
主人公は14歳。海炭市叙景主人公の最年少。
佐藤泰志は、この年代でもっと書けたと思うこと、
このなかの山の描き方、泰志にとって山は特別な存在だと思うこと、など話した。
あとから「星と蜜」も好きだな、と思った。
「一滴のあこがれ」や「星と蜜」は映画や映画館が出てくる作品でもある。
映画『愛の予感』の被害者・加害者も14歳という設定だった。
わたしも14歳を詩にしたことがある。
以前、小学生女児殺害事件に衝撃を受け
「郭公のこどもたち」という詩を書いた。
11歳の同級生だった。
14歳の男の子の詩も書き、連作となり(後の秋葉原事件も)
作品に年齢も入れた。
小林監督に、「一滴のあこがれ」とともに読んでもらえたら・・・
深夜、そんなことをあれこれ思って。